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KNOB祈りの音 第一回奏楽堂ライブ 和の心にて候 演出メモ 2006、4 太田新之介
何年か前になる。不思議な音を奏でる青年に会った。 彼はオーストラリア原住民アボリジニの楽器ディジュリドゥを吹く日本で数少 ない奏者だった。 オーン、オーンと大地から湧き出しているとしか思えない響き。太虚の宇宙 から舞い降りてくるような妙なる旋律。 目を閉じていると、遠く母の胎内で聴いたあの音なのか、と思えてくる。 その青年をKNOBといった。 縁があり、何年か接している内に彼がなぜこの長い木笛で妙なる調べを奏 でられるのか分かってきた。 彼は私の思う日本人の血を色濃く受け継いでいたからだった。 彼の身体の中に流れる血潮は、今に生きる日本人が忘れ、落としてきた和 の心もののあわれによって染められていた。 かつて、何十年か前まで、我われの親たちが当然のように持っていた和の 心というものがあった。気候風土から生み出されてきた良き生活習慣。自然 と対峙することなくその中で生かされているというような自然観があった。 彼は神仏を畏れている。それは彼の自然観から来ている和の心そのもの だった。彼の紡ぎだす音の周りには、原始の祈りの気が漂う。彼は何を祈っ ているのだろうか。それは生きとし生けるものに捧げる祈りのようであり、そ の祈りが音霊となって、風や潮の香りを呼び、野山の草木にささやき、川の せせらぎを微笑ませ、鳥獣たちを共に祈り出させるのである。 彼が長年書道に精進し、能や茶の湯に浸っているのもうなずける。ワクワク する和の心をもった日本人がアボリジニの笛をもって音を紡ぎだす。この斬 新さは論をまたない。彼によって、この木笛はアボリジニの楽器や和楽器で なく世界の楽器になると言ってよいだろう。 今年の秋、彼がディジュリドゥをもって和の心を奏でることになった。会場は かつて滝廉太郎や山田耕筰、三浦環たちが活躍し、多くの音楽家が巣立っ た旧東京音楽学校・奏楽堂である。明治23年建造のこの学舎は木造2階 建てで木造のコンサートホールとして我が国最古であり、重要文化財に指定 されている。 彼が世界に飛翔するにふさわしい会場であると思う。 私はこれに立ち会ってみたいと思った。彼が彼の和の心が「九天飛翔」と銘 打ったディジュリドゥに乗り、天空に音霊を発する場面に立ち会ってみたいと 思った。 縁としかいいようがないが、奏楽堂ライブの演出をすることになった。私も ワクワクしながら錦秋の11月10日(金)に、多くの人たちと一緒に彼の祈り の音を聴いてみたいと思っている。
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